「マンションの売買契約を解除したい」
売りに出していた中古マンションが売れ、売買契約を結んだけれど、後日買い主から契約を解除したいと言われた、または何らかの事情でこちらから契約をキャンセルしたいということもあるかもしれません。
そんなとき、売り主としてどう対処すればよいのでしょうか。
マンションの売買契約は、売り主と買い主のどちらからでも解除することは可能です。
ですが、売買契約締結後に安易に契約解除を申し出ると、思わぬ違約金を支払うことになるかもしれません。
違約金や仲介手数料の支払いなどを巡って、争いになってしてしまうことも少なくないのです。
もし契約解除になったとしても、できるだけスムーズに手続きを済ませたいもの。
自分から契約を解除する場合も相手方から解除を申し出られた場合も、正しい知識を持って行動することが大切です。
この記事では契約解除の種類や、キャンセルによる違約金と仲介手数料の支払いについて詳しく解説します。
マンションの売買契約締結後に契約を解除することは、少なからず相手方に迷惑をかけることにもなります。
きちんと対処できるように備えておきましょう!
マンションの売買契約解除には5つのパターンがある
不動産の売買契約は大きなお金が動く取引なので、一度契約を結んでしまうと、簡単に契約を解除することはできません。
しかし、やむを得ない理由でどうしても契約を解除しなければならない場合、以下のような方法で契約を解除することができます。
契約解除の種類は、次の5つ。
- 手付放棄・倍返しによる解除
- 契約違反による解除
- 売り主と買い主の合意による解除
- 住宅ローン特約による解除
- 買い換え特約による解除
このうち、1,2,3は売り主、買い主のどちらからも言い出せる、またはどちらかの都合で解除になります。
そして、4,5は買い主の都合で契約解除になります。
では次に、それぞれの契約解除について詳しくみてみましょう。
1. 手付放棄・手付倍返しによる契約解除
売買契約後、相手方が契約の「履行に着手」するまでであれば、買い主側は手付金を放棄、売り主側は手付金を倍返しすることにより、契約を解除することができます。
履行の着手とは、売買契約の実行に向けて具体的な行動を起こすことを言います。
「履行の着手って具体的にどのことをいうの?」と思いますよね。
じつは手付解除ができる期限である「相手方が履行に着手しているかどうか」については、明確な基準がないのです。
このことが原因でトラブルが多く発生しており、裁判になる事例も少なくありません。
そのため、契約書を作成する際、手付解除ができる期間を具体的に「契約日から◯日以内」と明記することも多いようです。
手付解除をするのに特に理由は必要なく、手付解除のできる期間内であれば売り主からでも買い主からでも手付解除を申し出ることができます。
手付解除における「履行の着手」に当たるかどうかで裁判になった例
売り主が売買契約締結後に行った売買物件と隣接土地の境界を確定する作業、転居先のリフォーム工事の着手を「履行の着手」と認めた例を紹介します。
売り主Aは、売買契約書の「本件土地と隣地との境界を引き渡しまでに確定し、それを証明する書類を提出すること」という内容に沿って、隣地との境界確定作業を行った。
さらに、売り主Aは自身の転居先物件のリフォーム工事の請負契約を業者と結び、工事の着手金を支払った。
この契約により請負業者がリフォーム工事に着手し、転居物件はリフォーム工事のためスケルトン状態になっていた。
その後、買い主Bによる手付解除がなされた。
売り主Aは、自分はすでに契約の履行に着手しているとして、手付解除の無効を求めて裁判を起こした。
裁判では、買い主Bが手付解除をする前に売り主Aが行った以下の行為は、履行の着手に当たると認められた。
- 隣地との土地の境界を確定する作業をした
→履行行為の一部をした - 転居先のリフォーム工事に着手した
→履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした
よって、売り主は買い主が手付解除を行った時点で、すでに本件売買契約の履行に着手していたものと認められるから、買い主が行った手付解除は無効である。
2. 契約違反(債務不履行)による契約解除
売り主または買い主のどちらかが契約に違反した場合、違反した側が違約金を支払うことにより契約が解除されます。
違約金の額はあらかじめ契約書に明記されますが、売買代金の20%ほどで設定されることが多いようです。
契約違反とは「債務不履行」のことを指しますが、実際どのような場合が契約違反となり、契約解除となるのでしょうか。
義務を履行しなければ契約違反になる
不動産の売買契約が成立すると、売り主・買い主にそれぞれ以下のような義務が生じます。
- 売り主に生じる義務
不動産の抵当権を抹消、所有権移転登記、引き渡し
- 買い主に生じる義務
売買代金の支払い
売り主が所有権移転登記、引き渡しを行っているにもかかわらず買い主が売買代金を支払わない場合、買い主の契約違反(債務不履行)は違法となり、売り主に契約の解除権が発生します。
つまり、一方が義務を履行しているのにどちらか一方が義務を履行しない場合に、義務を履行している側が契約を解除することができるということです。
契約違反から契約解除までの流れ
上記のように買い主が契約違反をした場合、まず売り主は代金を支払うように(期間内に債務を履行するように)買い主に書面で催告します。
それでも買い主が代金を支払わなければ、売り主は契約を解除することができ、買い主は違約金を支払わなければなりません。
契約が解除されれば、売り主・買い主にはそれぞれ、契約締結前の原状に回復する義務が発生します。
-
買い主の契約違反
買い主が定められた期日内に代金を払わない。
-
売り主は契約通り売却手続きを遂行
売り主は物件の引き渡し・所有権移転登記の義務を遂行している。
-
債務履行の催告
売り主から買い主へ内容証明などで催告する。
例「物件の売買代金を本書面到着後10日以内にお支払いください。お支払いいただけない場合、本契約を解除します」 -
契約解除
買い主が催告に応じなかったので契約解除になる。
買い主が売り主に違約金を支払う。 -
売り主・買い主にそれぞれ契約締結前の原状に回復する義務が発生
売り主は買い主に対し、引き渡した不動産を返還、所有権移転登記を抹消するよう請求できる。
買い主は売り主に対し、支払い済みの手付金・代金等を返還するよう請求できる。
ただし、上記のように売り主から契約解除をするには、売り主がきちんと契約の義務を果たしておく必要があります。
上記の「買い主の代金支払い」と「売り主の不動産の抵当権の抹消、所有権移転登記、引き渡し」は同時に履行されなければなりません。
そのため、買い主が代金を支払わないという契約違反をしたとしても、売り主が所有権移転登記や引き渡しの義務を怠っていれば、買い主の契約違反は違法にならないため、売り主に契約の解除権は発生しないのです。
手付解除ではなく契約違反になるのはどういうとき?
手付解除のできる期間内(具体的な日付で定めている場合はその期間内)や、相手方が契約の履行に着手する前であれば、売り主・買い主のどちらからでも手付解除することができます。
しかし、手付解除のできる期間を過ぎている場合は、契約違反による解除となり、違約金を支払って契約を解除することになります。
3. 売り主と買い主の合意による契約解除
売り主と買い主の合意によって契約を解除する時は、契約解除の条件や時期など、当事者間の合意で決められた条件で解除するため、特に規則はありません。
ただし、お互いが納得して契約解除をするからといって、話し合いだけで済ませては、後からトラブルになりかねません。
合意により契約解除したことを、きちんと文書に残しておきましょう。
4. 住宅ローン特約による契約解除
不動産の売買契約では、売買代金が高額になるため、買い主は銀行から住宅ローンの借り入れをする前提で売買契約を締結することがほとんどでしょう。
このような場合、もし買い主が銀行の住宅ローン審査に通らなければ、不動産の購入ができなくなる可能性があります。
買い主が住宅ローンの承認が下りないことで契約を解除せざるを得ない場合、これを契約違反として違約金を支払わなければならないとなると、買い主は大きなリスクを負うことになりますよね。
これでは、不動産の購入を最初からあきらめなければならない、ということにもなりかねません。
そのため買い主が住宅ローンを利用する場合は、契約書に「買い主が銀行から住宅ローンを借りられなかった場合、買い主は何のペナルティも負うことなく、契約を白紙に戻すことができる」という特約をつけるのが一般的です。
これを「住宅ローン特約」と言います。
「住宅ローン特約」の注意点
住宅ローン特約は、買い主がローンの審査に通るための努力をしたが通らなかった場合のみ適用されます。
買い主がローン申請に必要な書類の提出を怠るなど、審査に通るための努力を怠った場合は適用されません。
本当は契約を解除したい理由が他にあるのに、手付金を没収されるのを避けるためにわざとローン審査に落ちて、ローン特約による契約解除に見せかけようとすることを防ぐためです。
住宅ローン特約による解除でも手付没収される場合
住宅ローン特約には2つの種類があります。
- 解除条件型
融資の不承認が解除条件となっているので、融資が不承認となった場合は売買契約は当然に効力を失い、融資の不承認により売買契約は自動的に解除となるため、売り主への解除通知はしなくてよい。
- 解除権留保型
融資が不承認となった後、買い主が留保されていた解除権を行使することが要件であるため、買い主は解除権の行使期間(解除期限)内に、売り主に対し解除の意思表示をしなければならない。
住宅ローン特約による解除条件が解除留保型であるにもかかわらず、買い主が解除期限内に売り主に対し解除の意思表示をしなかった場合、買い主は売り主に手付金を支払わなければなりません。
そのため買い主は、住宅ローン特約による契約解除をする場合、不動産業者に任せるのではなく、内容証明などの確実な方法で、解除期限内に直接売り主に通知する必要があります。
売り主側も、住宅ローン特約のタイプと解除期限をきちんと確認しておきましょう。
住宅ローン特約によるトラブルを避けるために明記しておくこと
ローン特約で契約解除になった場合、売り主は「売却を前提とした準備がむだになってしまった」「一定期間売却活動ができなかった」というように、少なからず損害を受けることになります。
そのため、住宅ローン特約では、文言の解釈の違いによって争いが生じることが多いようです。
そこで、トラブルを避けるために以下の内容をローン特約の条項に明記しておくようにしましょう。
- ローンを受ける予定の金融機関名
- ローン金額
- ローンが承認されない場合、他の金融機関に依頼するか
- ローン特約による解除ができる期限
- ローン特約による解除の売り主への通知方法
5. 買い換え特約による契約解除
買い主が、別の不動産を売却した代金を、物件の購入資金にあてる予定にしていることを「買い換え」と言います。
買い換えで不動産を買おうとしている場合、売りに出した不動産が売れなければ、買う予定の不動産の購入はできなくなる可能性が高いでしょう。
そのため、売りに出した不動産が売れなければ、買い主は不動産購入の契約を解除し、白紙に戻すことができるという特約をつけることがあります。
この特約を「買い換え特約」と言います。
買い換え特約によるトラブルを避けるために明記しておくこと
買い換え特約でもローン特約と同様に、契約書の文言の解釈の違いから争いに発展することが多いようです。
売買契約の際は、以下の内容を買い換え特約の条項に明記しておくようにしましょう。
- 売却予定物件と売却期限
- 売却期限までに売れないときは買い主は売買契約を解除できる旨
- 買い主が契約解除した場合、契約時に売り主へ支払われた手付金や代金は返還するのか
- 買い主が契約解除した場合、買い主に損害賠償義務があるかないか
売買契約が解除になったら、仲介手数料はどうなるの?
マンションの売買契約が解除になったら、不動産会社への仲介手数料は支払わなければならないのでしょうか。
こちらの都合で契約解除になった場合ならともかく、相手方の都合により契約解除になった場合でも仲介手数料を支払わなければならないとしたら、納得いかないと思うかもしれません。
しかし売り主と買い主、どちらの都合で契約が解除になったかに関わらず、基本的に仲介手数料は支払わなくてはなりません。
これは、契約が解除になったことは当事者間の問題であり、不動産会社は媒介契約どおり売買契約の成立に向けて仲介業務を行っており、不動産会社には落ち度はないとされるためです。
ただし、不動産会社との交渉次第では、減額してもらえることも多いようです。
仲介手数料を支払わなくてはならない場合
次の2点については、不動産会社に仲介手数料を支払わなければなりません。
- 合意による契約解除
この場合、不動産会社は仲介手数料を満額請求できると考えられることが多い。
しかし、売買という目的が達成されていないため、業務を全うしていないことから、一般的に減額交渉はできると考えられている。 - 契約違反(債務不履行)による解除
買い主が代金を支払わなかったなどの債務不履行で契約解除になった場合でも、売り主も仲介手数料を支払わなくてはならない。
しかし、交渉次第では全額ではなく8割などに減額されることもある。
仲介手数料が発生するかどうかで意見が分かれる場合
解除特約または手付解除で契約をキャンセルした場合は、仲介手数料が発生しない可能性があります。
ただし不動産会社により対応が異なるので、事前に確認しておくことをオススメします。
- 解除特約が適用された場合
ローン特約など、特約がある場合は特約に定められている内容に従う。
解除特約の内容に「住宅ローン審査に通らなければ仲介手数料の請求権は発生しない」と定められていれば、不動産会社に仲介手数料の請求権は発生しない。 - 手付解除で契約を解除した場合
手付解除では、裁判で争いになっている例も多く、以下のような判決例があり、意見が分かれている。
- 売買契約が成立した時点で不動産業者に仲介手数料の請求権が発生するため支払わなければならない。
- 売買契約は解除権が留保された契約であるため、解除権が行使された場合は請求権はない。
- 契約解除により売買が達成されていない、不動産業者の業務が全うされていないなどの理由で仲介手数料の2割減ほどの額を支払わなければならない。
売り主が契約解除する前に考えるべき費用のこと
「マンションの売買契約締結後に、もっと高い値段で買いたいという人が現れた!契約を解除して、高値で買ってくれる人に売りたい」
売り主としては、少しでも高値でマンションを売りたいと考えるのが自然です。
ですが、売買契約を解除することで出ていくお金があることも忘れてはいけません。
以下のようなお金を引いても、まだプラスが出るほど高い値段で売れるというのであれば、契約を解除してもよいでしょう。
- 手付解除ができる場合
- 手付倍返しで支払う金額
- 不動産業者から請求されるかもしれない仲介手数料
- 手付解除ができない場合(相手方がすでに契約の履行に着手しているとき)
- 違約金
- 不動産業者から請求されるかもしれない仲介手数料
マンション売買契約の解除は慎重に
マンションの売買契約は売り主、買い主、不動産会社など様々な人が関わっています。
また、手付金や売買代金など、動くお金の額も大きいです。
そのため、売り主側が解除を申し出る場合も、買い主から解除を申し出られた場合も、違約金が発生するなど、お互いに少なからず損害を受けることになるでしょう。
マンションの契約解除を申し出る理由は状況によってさまざまなので、自分がどちらの立場になるかわかりません。
いずれにしても、お互いがどのような影響を受けるのかを考え、どちらの場合でも慌てずにすむように、マンション売買契約解除に関する正しい知識をもっておくがことが大切です。
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